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pen & voice galaxyはラジオドラマ専門集団です。

東日本大震災に被災された全ての方にお見舞い申し上げます

夕映トラストリップ


【夕映トラストリップ-クリスマス外伝-】

クリスマス・イブ
街はキラキラとした音楽やイルミネーションで彩られ、その寒空の下は暖かい笑顔でいっぱいになっています。
神様の使い、ナリは今日も暇つぶしに下界に降り、その意地悪な微笑を浮かべておりました。
「おもしろいなぁー人間はー。祭りごとで騒ぐのが本当に好きだよねぇー。特にクリスマスってものは宗教の違いはあっても、みんなではやしたてるものだぁねー。まぁーどうでもいーんだけどぉー、ってあれ…およよよ?」
なにか面白そうなもの見つけたのでしょうか、ナリは目を細めました。

「んー…ぐぐぐぐ、…うーんー」
カラフルに光る街並み。行き交うカップルたちが幸せを振りまくなか、廣岡旭はショーウィンドウを覗きながら1人唸っていました。
「花…は誕生日にやってるし、時計…もありがちだけど好みあるだろうし…んんんー」
想い人に贈るプレゼントだろうか。内容が決まらないまま街へ飛び出し、右往左往する自分に少し後悔をしております。
そしてその頭をいっぱいにしている存在を、悪戯な天使が知らないわけもなく、薄く歯を見せました。

「あっれぇー?ここはやっぱりぃー指環じゃないのぉ?」
頭を抱える旭のすぐ後ろから、声がしました。
「え?」
「愛しの姫にあげるんでしょぉ?王子っ様ぁ♪ひひっ」
「え…、あれっ…、ナルヴィ…?」
見覚えのある顔に、旭は驚きました。
「あーあーもーやだやだ、僕はナルヴィじゃないよー失礼だなぁ!外国人はみんな同じ顔に見える現象と一緒なんだよねぇ!気をつけた方がいいよ!あの腹黒使い魔なんかより僕のほうが104倍はキメ細かい艶めいたお肌なのにさぁーあ!」
「え…、えと、」
「あーでも、一度会ってたらそう思っちゃうのも無理ないかなぁー。僕優しいからそういうことにしといてあげるよぉ、廣岡旭くん…くふふっ」
「…っ、…ナルヴィじゃないとしたら、なんで俺のこと」
「えー聞きたいのぉー?しょーがないなー」
ナリはコホン、とわざとらしく咳払いをし語り始めました。
「むっかーしむかし!!とあるところにー?人を信じられないお姫様がおりましたぁー!お姫様はいたずら好きで美形ーな天使と出逢い、過去を見つめる旅にでますぅ。途中、運命的な再会を果たした王子様がお姫様の心を溶かしていきー、まぁそっからなんやかんやあってー、さまざまな苦悩のなか、お姫様は今の自分自身と向き合うことが出来たのでしたー!めでたしめでたしーっ!」
「…???」
「僕、あなたのお姫様のことよーく知ってるから、プレゼント選ぶの手伝ってあ・げ・る♡ふひひっ」
どうやら、暇つぶしの相手が決まったようです、髪で隠れたナリの瞳は街のイルミネーションの電灯のごとく煌めいておりました。

「そもそもクリスマスって言うのはキリストの降誕祭なわけでしょぉー?クリスチャンでもないのにこんなにもてはやしちゃって浮き浮き浮かれモードだよ、特に日本人ってやつはさぁー?まぁクリスチャンじゃないからこそ恋人と過ごすことをメインに捉えちゃうんだろうけーど!って、ああ!ごめーん、まだ恋人じゃないんだっけぇ?!!」
ナリはにやにやしながら皮肉を連ねています。
「おい、お前あいつのことよく知ってるって言ったよなぁ。なに欲しがってるとか、わかるのかよ」
「ひゃひゃ!わかりませーん」
「なっ」
「ていうかー、わかってたとしても教えないよねー。そんな簡単に物事が進むと思ったら大間違いだよぉ〜」
「こいつ…」
「まぁまぁ、言ったじゃない!手伝ってあげるって♪」

キュルルルルルル…
ナリがそう言った途端に旭の目の前が、ぐるぐると目が回った時のように歪み始めました。

カチッ

「?!」
ハッと意識が戻ると明るかった都会の街は一転、夕映に染まる広い空の下でした。
「わからないからぁ、よく知ってる人に聞けばいいじゃなぁい♪ってことでー、廣岡旭きゅん!今度は過去に遡っちゃおうぜツアー!スタート!!!」
「はぁあ?!って声高っ!!!ランドセル…って…小学生かよ…」
「さーぁ行ってみよー!真実はいつもひとー」
「うおおおいこらああああ!!!って、よくわかんねぇけどナルヴィのときと同じだな。まじで同類なのかこいつ」
旭が動揺を抑えている時です。

「あら、旭くん?こんばんはぁーっ」
買い物帰りか沢山の荷物を抱えた、よく知る顔の夫婦が背後におりました。
「ぬわぁ?!ゆ、夕菜のお母さん?!!」
隣にいた夕菜の父、晨之介の眉がピクリと動きました。それに気づいてか気づかなかったか、暁子は嬉しそうに反応します。
「あらやだ、もう名前で呼んじゃうようなそんな関係なのぉ?うふふ、旭くんも今夜のクリスマスパーティ呼んじゃうーっ?」
「我が家は男子禁制だぞー」
「もー大人気なぁい」
旭はすかさず、晨之介の父バカレーダーに反応しました。
「き、今日はこれから家でパーティするんですか!」
「そうよぉ、うちは毎年、クリスマスはホームパーティって決めててねぇ。お父さんが作るキッシュが夕菜大好きなんだってぇー」
「キッシュかぁ…。あ、ゆう…じゃなくて、マッキーって、サンタさんに何欲しいって言ってました?」
「え?ふふふ、旭くんのところにはまだサンタさんが来てくれるのねぇー。」
「あ、や、ははははー」
「それがねぇ、妹か弟が欲しいって言われちゃった。そんなものポンってあげられないからあの子もわかってて、意地悪よねぇ。まぁでも、頑張らないとねぇ晨ちゃんっ」
「こらこら、子どもの前だぞ暁子」
叱りつつも、はにかむ晨之介の顔に旭は少し切なさを感じました。
「ん?なんだい?」
「い、いや、なんでもないです!ありがとうございました!そ、それじゃ!」
「あら、うち来なくていいのー?」
「クリスマスは大切な家族と過ごす日です!3人で楽しんでください!…あの、お父さん、お身体大事にしてくださいねっ」
旭はそれだけ残すと走り去って行きました。
「ふふ、やっぱり変な子ねぇー、なにかオーラでも見えたのかしら。今日からお酒は控えないといけないわねっ」
「おいおい。…まぁでも、いい子だったな」

キュルルルルルル…
カチッ
「ふひひー、おかえりぃー」
「ん…元の世界に…帰ってきたのか…?」
「さっすがー!一度体験してる分飲み込み早いねぇー」
「だいぶ目ぇ回ってるよ…まったく…」
旭が少し感傷に浸りつつも、現代に戻ってきたとホッとしたのも束の間

「あーーーー!!!!見つけたぁああ!王子様!!!!」
突然目の前に現れた女の子に指を指され、素っ頓狂な声が上がったのに旭は驚きました。
「え、あれ…なんで俺のこと知ってるの?ってか王子って何…?(汗)」
「まさか本当に会えるなんて!やっぱり!これって運命?!!」
「ちょ、ほんと何言ってるの、、仲谷さん?」
夕菜の高校時代からの見知った宇宙人、いや、友達の仲谷陽芽でした。
「…え、なんで陽芽の名前知ってるの?もしかして!あなたも陽芽のこと気になってたのー?!!!!」
「い、いや!あの!その!えーっと!夕菜からたくさん話聞いてて!それで!はははは」
「夕菜から…?あーー!!もしかして、あなたが夕菜の運命の人…?!!!!ああああああせっかく出逢えたと思ったら失恋だよ!やっぱり今年もロンリークリスマスぅうううう何しに東京来たんだああああああ」
「えっ…?」
うな垂れる陽芽には目もくれず、旭は嬉しそうに顔を紅潮させています。
「運命ってなに…?夕菜がそう言ってたの?!!」
「ふぇ?あーそうそう、言ってたのー。運命を変えてくれた人だってー、ありゃ自覚ないけど惚気だなーふむふむ。ん?その言い方だと運命の人とはまた違うのかな?ってあれ、聞いてる?」
「ふひひ、心ここに在らずだぁね」「にゃはは」
ナリは虚空に向かって笑いかけております。
「てことは王子は明日は夕菜とデートですかい?」
「え?ああ、デートっていうか、一応それとなーく予定聞いたら千葉の実家に呼ばれてるって言ってたから、まぁそのあと東京まで送るよって感じで…はは」
「へぇー王子っていうか、召使いだぁね」
「うっ」
旭の胸にグサリと刺さった。そしてダメージを受けつつも、うわごとのように陽芽に問いかけてみました。
「あー…あのさー…、夕菜の好きなものとか知らない?なんでもいいから」
「んぇ、好きなものー?んー変なもの好きだよねぇ夕菜って…出店ではかたぬきって言ってたけど、へ!なにそれ?!って感じだったし。派手なものは好きじゃないよねー、んんんん…あ!そうだ!!!」
陽芽はぽんっと左手に拳を落としました。
「動物!!!好きだったよたしか!!」
「え、そうなの?」
「そーだそーだ!思い出した!なんかねぇ、高校生のときバッグにマスコットつけてたんだよいつも!ペンギンみたいなリスみたいな猫!」
「なにそれ…」
「なんだろー、外国のアニメか何かかなぁ。あの趣味はわからないや、へへ」
「へ、へー。ありがとう」
「いーえ!あーあ、大人しく帰ってホームパーティかぁー!まぁいいや!いえーい、ごちそーっ!!!」
「うん、楽しんでね」
「へへへ、あっそーだ!夕菜に 納豆の食べ放題、年明けこそ必ず!!って伝えておいてー!じゃあねー!メリクリー!!!」
軽快に走っていく陽芽見送りつつ、旭はまだイブなんだけどなぁと呆れながら呟きました。

キュルルルルルル…
カチッ
「えっ!」

あっという間に空間が歪み、ナリはまた旭を過去に飛ばしたようでした。
「時間は有限だからねぇーっ、さっさと次行こうねーっ♪」
「おい、時空超えてるときは時間進んでねぇだろ」
「僕の時は進むのぉー!退屈な時間に変化欲しいのぉー!まったく自分勝手なんだから人間はぁー!」
旭はナリに何を言っても無駄だった、とため息をつきつつ、あたりを見回し、自分の格好を確認しました。
「まぁ千葉…だよな、そんでブレザー…高校生か」
もう夕菜とは住んでいる学区が違ったので、ここで情報を得るには難しい。仕方ない、と旭は財布の中身を確認し、夕菜の住む街まで足を運ぶことにしました。そういえばこの頃、財布の中身の変化に気づいて弟と喧嘩したことがあったかもしれない、とふと思い出し、まさかなと苦笑したのでした。
「さて…到着。」
夕菜の通う高校の前にたどり着きました。
「夕方…部活辞めたあとならとっくに下校してると思うけど、もし夕菜に鉢合わせたらだいぶ厄介だなぁ。てか誰に話聞けばいいんだよ、仲谷陽芽…もまずいよな、もう二度と合わない人間の方がいいのか…。って、」
これじゃあ本当にストーカーみたいじゃないか、と旭は我に返りました。
「なにやってんだ、俺…はは」
旭が自嘲の笑みを浮かべているなか、声がかかりました。

「君、他校の生徒だよね、誰か待ってるの?」
その優しい声の主は、この高校の先生のようです。
「あー…、そう、だったんですけど、帰っちゃったのかもしれないです、約束してないので」
先生は目を細め、頷きました。
「そっかー、今日はクリスマスだからねぇ。部活がなければ俺もパーっとやりたいんだけどなぁ」
「…それって、彼女と?」
「え?あー、うん。この学校の子には言わないでね」
先生は頰を赤らめながら答え、その暖かい雰囲気に旭も笑みをこぼしました。
「はい。…あの、プレゼント何が欲しいって言われてますか?って、先生大人だし参考にしても買えるかわかんないんですけど」
先生は少し困った顔をして答えました。
「んー、指環をねだられてるよ。でも、それはまだあげられないんだ。もちろん気持ちとしてはあげたいんだけどね、やっぱり責任が、さ」
「?」
「値の張る良いものはここぞという時に贈るものだから。俺たちはまだその時じゃない、まぁ彼女も高価なものが欲しくて言ったわけじゃないってわかってるけどね。かたちあるものは気持ちの押し付けになりかねないから、とくに身に付けるものはね。って、安物ならこんなこと気にしなくていいんだけどさ、俺の歳を考えるとそれもねぇ…ははは」
「…付き合ってるなら、押し付けてもいいんじゃないですかね」
旭の問いに、先生はまたふわりと笑って答えました。
「付き合っているから、押し付けちゃいけないんだよ。」
旭はパッと顔を上げ、自然と先生の目に見入ってしまいました。
「逆に付き合っていないなら、押し付けていいんだよー?俺の気持ちわかってるー?って、気付いてもらおうとしたっていいんだよ。」
旭は自信を貰ったかのように、息を吐きました。
「…ありがとうございます。」
空を見上げて歩く旭を、先生は穏やかに見送っておりました。
「ごめんねー、部活あるからパーっと出来なくってー」
その刹那、先生の背後から声がかかりました。
「わっ!弥宵…聞いてたのかー」
「だって、しのちゃん帰ってくるの遅いんだもーん」
「まったく、フルートはまた休憩かい?」
「ふふふ。…その時が来るまで、待ってますね!」
「っ…、…ああ」

キュルルルルルル…
カチッ
「ん…、戻ってき…て、ない…。間髪を入れずに次ですか…」
「うひひっ」
はぁ、と旭はため息をつき、着ている学ランとその首元についた学年章を見て、今度は中学一年生の頃に戻ったのだと理解しました。
「中1かー、ってあれ…中1のクリスマスってたしか…!!」
周りを見渡した旭は、焦って走り出しました。

ドン!!! ドサッ!ドサッ!

「いたたたた…」
「いってて…」
ところが急いで曲がった角で、会ってはいけない子と遭遇したのです。
「あれ、廣岡…くん?」
「ゆう…や、えっとマッ…あー、はは、久しぶりー」
夕菜ともマッキーとも呼べない歯がゆさに、旭は苦し紛れに笑ってみせました。

「廣岡くんどうしたのこんなところで」
「いやぁ、今日ここの中学で部活の練習試合あったからさ…はは」
「そうなの?!ここ、わたしが通ってる中学だよっ」
夕菜のまだ濁っていない笑顔に、旭は思わず見とれてしまいました。
「夕菜のセーラー服姿、可愛いな…!くっそマブいぜ!!!…とーか思ってんでしょー、やーらしーなぁー旭きゅんはぁーふふー」
「だー!思ってねぇよ!」
図星ながら声を張り上げてしまい、夕菜はびっくりしました。
「えっ」
「あ!や、ごめん何でもないーあはは」
「ふふふ、相変わらず元気だね」
よいしょ、と立ち上がった夕菜は、塾帰りだったのだろうか散らばった教材をまとめ、制服も綺麗に整えました。
「久しぶりだし、たくさんお話ししたいところなんだけど、今日は早く帰らないといけないんだ」
「そっか、クリスマスだもんな!」
「うん!お母さんといっしょにケーキ作るの!」
「へー、何ケーキ?」
「チーズケーキ!お母さんがおつまみにもなるから最高なのよーって言っててね、廣岡くんは、何ケーキが好き?」
「あー、とくに好みはないけど…あれ、あの木の丸太の形してるやつ!クリスマスだなぁーって感動するんだ」
「ブッシュドノエルのこと?ふふ、可愛いよね!あっ、お母さんスーパーで待ってるから行かなくちゃ!廣岡くん、またねっ」
「おう!またな!」
走り去る夕菜の、キラキラと夕日になびく髪が綺麗だなと、旭は思わずみとれておりました。

「あんまりやりすぎると、嫌われちゃうよ」
夕菜の行った先を見つめていた旭は、背後の存在に気がつきませんでした。いや、その少女自身が、あまりに静かでこの冬の冷たい空気に溶け込んでいるかのようだったのです。
「夕菜ちゃん、いい子だよね。」
少女の言葉はやはり、どこか含みを感じるものでした。
「えと…君、あいつと仲良いの?あ、そうだ、あいつの好きなものとか欲しいものとか、知らないっ?」
「…、夕菜ちゃんのストーカーさん?」
「そ、そんなんじゃないよ!あはは」
少女はくすくすと小さく笑っています。
「夕菜ちゃんが欲しいのは、気持ちだと思うよ」
「え?」
「わたしも同じだから」
視線を落とした先は影が出来ていました。
「夕菜ちゃんには言わないから安心して。それじゃあね、ストーカーさんっ」

キュルルルルルル…
もしかしてあの子は、旭がそう思った矢先、視界がまたぐるぐると回りました。

カチッ

シャンシャンシャンと鈴の音がBGMとともに響き、旭は都会の煌びやかな街並みに目をやりました。
今日の出来事を彼女に話したら、また怒られてしまうんだろうな、と旭は困った顔で笑いました。
「気持ち…か…」
悪戯な天使もどこか満足げな顔をしていました。
明日は、クリスマスです。


「ごめんね旭、お待たせ」
駅前の噴水のある公園で2人は待ち合わせていました。
すっかり日も落ちるところで、遊んでいた子どもたちはとっくに家に帰っています。今夜は、どこの家もご馳走が待っているのでしょう。
屋根付きのテーブルベンチに夕菜も腰掛けました。
「ううん、俺も今来たところ」
真っ赤にした鼻が嘘を物語っていて、夕菜はふわりと笑いかけました。
「どうだった、ホームパーティは」
「あー、もーほんとね無駄遣いがすぎてたわ…。馬鹿みたいにでかいツリーと、半端じゃない量のケータリング…、まぁ今からご近所さん呼んでパーティ仕切り直すみたいだけど。お母さんも昼から酔っ払ってはしゃいじゃって、もう大変だったよ」
夕菜は苦笑して話していたが、どこか優しい目に旭は安心していました。
「おじさんがさ、もう寒いんだから良いものを着なさい!ってこのコート、プレゼントしてくれたんだ。すごいあったかいんだけど、いくらしたんだろうなぁ…怖い怖い」
「よかったね」
夕菜は巻いていたマフラーに鼻まで埋めて、笑みをこぼしました。

茜色に染まった噴水の水が、キラキラと揺れております。
「…あのさ、これ、クリスマスプレゼント」
旭が勇気を出して切り出しました。
「え…」
「や!あの!たいしたのじゃないから!そんな、あの構えないでいいから、なんとなく通りがかりで見つけて、好きそうだなぁって思って」
旭の余裕のなさに、夕菜はくすくすと笑いました。
「ありがとう」
包んである袋を開けて中身を取り出すと、
「ぬいぐるみ?…わ、かわいい」
それはふわふわした、ちょこんと座らせられる黒猫のぬいぐるみでした。
「黒猫って本当は幸福を呼ぶって言われてるんだよね、なにかの作品で、主人公が言ってたの覚えてる。この目も、キレイなオレンジ…」
「そう、色んな目の色があって、それぞれに意味があるんだ」
「へぇー、あっオレンジアベンチュリンて書いてある。パワーストーン?ふふ、旭ってこういうとこちょっと乙女っぽいよね」
「え、そう?」
「うん、ぬいぐるみなんて小学生以来だよもらったの。でも嬉しい、ありがとう」
「よかった。…あと、これも」
旭はより緊張した顔をして、もうひとつ手渡しました。
「お腹いっぱいだと思うんだけど…よかったら家に帰ってからでも」
首を傾げつつ、夕菜は渡されたタッパーのふたを開けました。
「ぁ…これ…、キッシュ?」
「うん。俺が作ったから、味合うかわかんないけど」
かすかに夕菜の目が潤みはじめ、一緒に入っていたフォークでひとくち、パクりと口に運び、小さく息をもらしました。
「お母さんに聞いたの?…懐かしいなぁ。小学生の頃、お父さんがクリスマスに絶対キッシュを作るの。たぶん、味見してなくて全然美味しくなくってさ。でも初めて作ったときに美味しいって言ったら喜んじゃって全部夕菜が食べていいんだよって。お母さん気きかせて夕菜だけずるいーって半分こして食べてたんだ。へへ、…旭の方が美味しいね」
「…それ、お父さん聞いたら泣いちゃうんじゃないかな」
「そうかもね」
夕菜はくすりと笑い、温かい白い息を吐きました。

カサッ
「これ、わたしから」
「えっ」
夕菜が端に置いていた紙袋を旭の前に差し出し、まさか準備してくれていただなんて思ってもみなかった旭は、目を丸くしました。
「子どもの頃言ってたことだし、うろ覚えだったんだけど。なんとなく今日、思い出したから」
袋の中から白い箱を取り出して、ふたを開けました。
「これ…、あっ」
「クリスマスといえば、これなんでしょ?」
クリームに薪のような筋がつき、粉砂糖で見立てた雪化粧の上には苺で作られたサンタクロースも乗っていました。箱の中に入っていたのは、細かく綺麗にデコレーションされたブッシュドノエルでした。
「すごい、これ手作り…?」
「久しぶりに、お母さんと一緒に作ったんだ。…こんなに楽しいクリスマス久しぶりだったよ。旭、ありがとう」
「お礼を言うのは俺だろ。…すげーうまそう、ありがとう」

暖かさに包まれた囲いの外では、冷たい雪がしんしんとちらついてきたようです。2人がその景色に気がつくのは、きっと日が完全に沈む頃かもしれません。

「メリー!クリスマースっ!! にひひひひっ」
サンタクロースは、また意地悪に笑ったのでした。

 (2017 夕映トラストリップ製作委員会 / pen & voice galaxy)